研究会の歴史(振動流エネルギー変換輸送現象研究会)


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 振動流エネルギー変換輸送現象研究会

2005年4月から2008年3月までの研究会プログラム

 主査:琵琶 哲志
 幹事:平塚 善勝
 会計:金尾 憲一



第1回

日時:2005年6月11日(土),午後1時半より
場所:名古屋大学ベンチャービジネスラボラトリー 3階ミーティングルーム

講演プログラム:
(1)放物型温度分布をもつ管内気柱の線形安定性と臨界条件
  杉本 信正,吉田 正福 (阪大院 基礎工)

 温度勾配をもつ管の中の気柱が,ある臨界条件下で不安定になり自励振動し始めることはよく知られている.一端が開き他端が閉じた,いわゆる1/4波長管内の気柱に対しては, Rottにより理論的に臨界条件が導かれ,その後Yazakiらによって実験的にその結果が確認されている.Rottは簡単のため,温度分布がステップ関数で与えられると仮定し,境界層厚さの管径に対する比の2次近似まで考慮することによってどうにか臨界条件を求めることに成功した.本報告は今後の非線形理論の展開を目指し,もう一度線形安定性理論を考え直し,滑らかな温度分布に対して臨界条件が求まらないか検討した.この結果,温度が管の軸方向に放物線状に分布している場合には,解が解析的に求まり,しかも,境界層の厚さ比の1次近似の範囲で臨界条件が求まることが分かった.この結果を示すとともに,Rottの結果とも比較検討する.

(2)液体キセノンカロリメータ用パルス管冷凍機の研究
  春山 富義(KEK素粒子原子核研究所・物理第1研究系)

 レプトンフレーバーを破るμ粒子稀崩壊探索実験(MEG)では、大量の低温液体キセノンと液中に設置した光電子増倍管を備えたカロリメータによって、γ線の検出を高精度に行なうことが実験の成否を握る。γ線を受けて液体キセノン中で発光した真空紫外光を検出する光電子増倍管は、165Kという低温度で安定に長時間保持される必要がある。従来は77Kの液体窒素を大量に使用して低温状態を保持する方法であったが、温度差が大きく,液体キセノンの温度、圧力は大きく変動するものであった。
 このためKEKにおいて、液体キセノン温度でより高い冷凍能力を持つパルス管冷凍機を開発した。開発した要素技術は、(1)低温端熱交換器のスリット加工により広表面積を確保、(2)蓄冷器を内側に置く同軸型構造などである。開発試作したパルス管冷凍機は最低到達温度が70K、165Kでの冷凍能力70Wを得た。より高い冷凍能力と信頼性が必要となるMEG実験のために、冷凍機メーカー(岩谷産業)の協力を得て、165Kで200Wの高冷凍能力をもつパルス管冷凍機を開発した(下図-左)。
  開発した高冷凍能力パルス管冷凍機を用い、大型プロトタイプカロリメータの冷却・液化・低温保持を行なったところ、液体窒素を全く必要とせず、高精度に温度安定制御された液体キセノンカロリメータによる長期物理実験の実証ができた(下図-右)。  この小型冷凍機は、更に米Columbia大学における暗黒物質検索テスト実験にも応用され、液体窒素を必要としない実験に成功、評価を得ている。液体キセノンを対象としたパルス管冷凍機開発の成功は、世界各国の液体キセノンを用いる物理研究に弾みをつけている。

Fig. 1 KEK開発キセノン用パルス管冷凍機(右)と技術移転(岩谷産業)された冷凍機(左)

Fig. 2 冷凍機搭載MEG用液体キセノンカロリメータ (大型プロトタイプ:液体120L、250台のPMT)


(3)平衡曲面の性質
  富永 昭(殿物理研究所)

 『誕生と変遷にまなぶ熱力学』を基礎として、平衡系の熱力学を議論したい。物質に着目すると単位質量あたりの示量性状態量(エネルギーUとエントロピーSと体積V)は基本的な状態量である。U-V-S空間内の点のうちで平衡状態に対応する点の集合を平衡曲面と呼ぶことにする。平衡曲面の幾何学的性質を熱力学の第二法則と第一法則とを使って調べる。熱力学第二法則によれば、U-V-S空間はあの世と非平衡状態との2つの空間から成り、両者の境界が平衡曲面である。熱力学第一法則によれば、温度や圧力は平衡曲面に接する接平面の傾きとして再定義される。



第2回

日時:2005年10月22日(土),午後1時半より
場所:東京大学生産技術研究所第4会議室

講演プログラム:
(1)熱音響現象によるパルス音波のエネルギー増幅
  吉田 秀穂  同志社大学

 熱音響機器を実用化するには,熱から音への効率的なエネルギー変換が重要である.そこで熱音響冷凍機のプライムムーバー部を取り出した測定系を製作した.パルス音波でのエネルギー変換を測定するため,温度勾配を形成したスタック前後のパルス音波の音圧を測定した.音圧の測定にはB&K社のプローブマイクロホンを用いた.測定結果より,パルス音波のスタック通過後の音圧及びインテンシティの増幅率を算出した.本報告では,入力音波の周波数,音圧,スタックの流路半径,全長及びスタック内に形成する温度勾配の変化が,パルス音波の音圧及びインテンシティの増幅にどのような影響を与えるかについて検討した.


(2)管内を伝播するパルス音波を用いた熱音響効果の実証
  新名 雅俊(名大 応物)

 本実験では円管内を伝播するパルス音波を使い熱音響効果を調べた.全長60m,内半径10.5mmの円管の一端に電磁弁を介してガス溜めを取り付けた.2気圧の空気をガス溜めに充填し,電磁弁を短時間開く事でパルスを発生させる.管壁に設置した圧力センサーにより,パルス伝播の様子を時間的,空間的に測定した.熱音響効果を調べるため、温度勾配をつけた蓄熱器をパルス入射口から38mの位置に置いた.蓄熱器に入射するパルスは一部が反射し一部は透過する.それぞれの音響強度を圧力測定から決定した.本実験のパルスは150Hz以下で連続スペクトルを示すので,一度にこの周波数帯の進行波の熱音響効果を調べることができる.温度勾配や蓄熱器内の流路径を変え,各周波数の音響強度の反射率,透過率を調べた.


(3)温度勾配を設けた管内の気体中を伝播する非線形圧縮パルス波に及ぼす熱音響効果
  杉本信正、堀本宏樹、増田光博、荒木保裕(阪大院・基礎工)

 本講演では、管の中の空気にスタックにより温度勾配を与え、その中を圧縮の位相だけを有する非線形パルス波を伝播させたときの実験結果を述べる。温度勾配が伝播の向きに正でしかも適切な値をとると、熱音響効果によりパルス波のエネルギーフラックスが増加することが知られている。しかし、パルス波のピーク圧が大きいとすぐに衝撃波が発生し、この結果非線形減衰が生じエネルギーフラックスは減少する。これを防ぐために、適当な共鳴器列を取り付け分散性効果を発生させる。理論との比較上、スタックの間隔は境界層厚さより十分広くとり、最高温度を約600Kに保つ。実験は管路をループ状にし、温度勾配を与えない場合の結果と比較することによって、パルスに及ぼす熱音響効果について調べた。


(4)第12章 自由エネルギーの幾何学的性質
  富永 昭 (殿物理研究所)

 U-V-S空間内の平衡曲面の性質を使って、自由エネルギー(ギブズの自由エネルギーG、ヘルムホルツの自由エネルギーF、カマリングオネスの自由エネルギー=エンタルピーH)を幾何学的に導入する。自由エネルギーは平衡状態でのみ意味がある。暫定的にエントロピーは正と仮定して、G、F、HとエネルギーUとの大小関係を議論すると、Fが最小でHが最大となる。GとUとの大小関係は定まらない。熱力学第一法則を使うと、自由エネルギー毎に自然な独立変数が決まるとともに、3つのマクスウェル関係式が得られる。暫定的にエントロピーは正と仮定して、G(T, p)、F(T, V)、H(S, p) の幾何学的形状を議論する。ギブズ・ヘルムホルツ方程式は「ヘルムホルツの問題」を提起する。


第3回

日時:2005年12月17日(土),13:30~17:00
場所:早稲田大学大久保キャンパス62W号館1階中会議室

講演プログラム:
(1)スターリングエンジン再生器の役割と設計指針
  田中 誠(日大)

 スターリングエンジンの熱効率向上には欠かせない、再熱蓄熱器である再生器について述べる。再生器はヒータとクーラの間に設置されており、ヒータから高温気体が流入する際にこの熱量を蓄熱し、逆流時にはこれを気体に放熱し高温状態の気体をヒータに戻す役割を果たしている。今回は、再生器性能を評価する指針として重要な再生器の損失圧力の見積もり方法と、再生器損失熱量の見積もりの基礎となる再生器の熱伝達率の概要を述べる。また、これらがスターリングエンジンの熱効率に及ぼす影響を検討した結果について述べる。


(2)フリーピストンスターリングエンジンの研究
  星野 健(JAXA)

 スターリングエンジン発電機は,熱から電気への高効率エネルギー変換器として期待されており、NASA等の宇宙機関でも活発に開発が続けられている。JAXAでは、旧航空宇宙技術研究所時代の1980年代から、さまざまなスターリングエンジン発電機を開発し、実験による評価を行ってきた。3代目であるNALSEM 500エンジン発電機は,セミフリーピストン型であり22%の総合効率を示した。その後,改良型のNALSEM700を設計・試作したが、これもセミフリーピストン型であった。これらの結果に基づいて,完全なフリーピストンスターリングエンジン発電機を実現すべく、NALSEM200を設計・試作し、現在も改良を継続している。今回は、このフリーピストンスターリングエンジンに関する研究を中心に発表する。 


(3)熱音響エンジンのQ値の測定
  矢崎 太一(愛教大)

 1980年代には共鳴管を用いた「定在波熱音響エンジン」が確立され,1990年代後半にはループ管を用いた「進行波熱音響エンジン」が提案された。今後,これらのエンジンを基本形とした多くの奇抜?な熱音響エンジンが誕生するに違いない。そしてこれらのエンジンを利用した可動部を持たない「冷凍機」や「発電機」などの新しいデバイスが一般社会に貢献する可能性が高まったと考えている。
 熱音響現象を説明する「熱音響理論」が提案され,熱音響現象の分類や基本的な「理解の方法」が可能になった。 結果的に新しいエンジンの提案や試作も容易になったと考える。だから気柱が発振する(エンジンとしての機能が発現する)可能性を指摘するのはそれほど難しいことではない。しかし実際に臨界点を予測するのはそれほど簡単ではない。臨界点に到達することなしに,気柱が不安定になる可能性とおよその臨界点を予測することをQ-値の測定を通じて試みた。
 講演では熱音響現象の理解の方法を再確認するとともに上記Q-値の測定結果について報告する予定である。


(4)進行波音波を用いたスターリング冷凍機の開発
  上田 祐樹(東大)

 熱音響冷凍機とスターリング冷凍機内のエネルギー流を比較し,その比較を基に新しいタイプの熱音響冷凍機を提案する.スターリング冷凍機では蓄熱器を通過したエネルギー流はピストンとクランク,ディスプレーサーなどの機構によって,回収され,再び蓄熱器に投入される.これに対して,これまでに開発されてきたほとんどの熱音響冷凍機では,蓄熱器を通過したエネルギー流は,装置の構造が原因となって,すべて散逸されている.この散逸は冷凍機の効率を下げる原因になる.そこで,蓄熱器を通過したエネルギー流を回収し,再び蓄熱器に投入する機構を有する熱音響冷凍機を製作した.発表では,製作した熱音響冷凍機内のエネルギー流の分布を示し,冷凍機の性能について述べる.


第4回

日時:2006年3月18日(土)13:00~3月19日(日)12:00
場所:KKR江ノ島ニュー向洋

講演プログラム:
3/18(土)
(1)スターリングエンジン商品化の動向とパルス管エンジンの基本特性
  濱口和洋

 スターリングエンジンは、潜水艦のエンジンなど特殊用途での利用が主であったが、家庭用コージェネレーションシステムなど民生用にも使用され始めている。その結果、日本においては本エンジンの輸入販売並びに日本製エンジンの開発が進められいる。ここでは、商品化の動向及び用途事例について紹介する。 パルス管エンジンは、2シリンダ2ピストンのスターリングエンジンの構成と良く似ているが、1シリンダ1ピストンさらには高温部にピストンがないため熱対策も容易になる構成である。本研究では、パルス管エンジンの性能に及ぼす因子を見出すため、モデル試験機を用いたオリフィス、バイパスそしてイナータンスのエンジン性能への影響を実験的に調べ、本エンジンの設計指針を述べる。


(2)パルス管冷凍機のレビュー
  井上龍夫

 機械学会系のメンバー、あるいはこの分野の初学者の参加も意識して、蓄冷型冷凍機の初歩的な部分からのレビューを行う。但し、議論の視点は「熱音響工学、熱音響理論 」に置き、従来の視点との違いを意識して進める。特に蓄冷器(再生器)についての考え 方にポイントを置き、その機能、役割、設計上の留意点について解説する。即ち、再生器は熱交換器なのかエネルギー変換器なのか・・・。 そのような考え方に基づいて、パルス管冷凍機の発展経緯をその流体制御方式と熱輸送(寒冷発生)のメカニズムの違いで紹介する。ベーシック型の熱輸送はsurface heat pumping effectで冷凍部で吸熱された熱(エントロピー)は主にパルス管内を輸送されるが、オリフィス型になり蓄冷器が熱輸送の本流になり、さらにダブルインレットの出現でパルス管部は熱流入源になり、それを防ぐことにその効率化の努力は注がれた。
最後に最近のパルス管冷凍機の進展状況やまだ解決されていない問題などをかいつまんで紹介する。 


(3)熱音響の観点からのスターリングエンジンの理解
  矢崎太一

 熱音響現象を理解するために「熱流」や「仕事流」なる物理量が用いられている。これらの概念は振動流によるエネルギー変換を理解するための新しい概念かもしれない。従来から(時間や空間に依存しない)熱力学の階層で理解されていたStirling Engine を熱音響現象の典型例として捉え,「熱流」や「仕事流」を用いて熱力学とは異なった階層で理解することを試みた。 両端を2つのスピーカで閉じた円筒管内に温度勾配をもった蓄熱器を設置し,スピーカどうしの位相を変えながら円筒管内部の「仕事流」を計測してみた。講演ではこれらの実験結果に基づいてStirling Engineのメカニズムを検討した。


(4)最近の研究成果から
  上田祐樹(東大)

 ループ管熱音響エンジンの性能を評価する計算手法を提案した.Rottにより導出された波動方程式と連続の式から,圧力変動Pと流速変動Uの伝達マトリックスMが得られる.管がループ状になっていることは(P,U)に対する簡単な関係式で与えられる.この式の解 (P,U) が有限となる蓄熱器両端の温度比を蓄熱器内の流路径の関数として計算し,ループ管熱音響エンジンの発振温度を得た.また,得られた解(P,U)から装置内の音場と蓄熱器内のエネルギー流束を算出し,ループ管熱音響エンジンの性能を評価した.


(5)衝撃波や大振幅音波の熱伝達と低温発生(音響やパルスチューブの原理考察)
  一色尚次

 著者は東大航空原動機学科に入学して陸軍航空本部技研等に動員されたが,圧力変動の大きなものには大きな熱伝達が生ずることを体験した.その後,船舶技研・東工大・日大で圧力変動時の熱伝達の研究を繰り返し,強力な音波や衝撃波はその圧力上昇時に高い熱伝達率と自己断熱上昇のため,その時外に熱を捨てることを発見した.(圧力効果時には逆の現象が起こる.)この現象を基にパルスチューブ冷凍機の冷凍原理の考察を行った.


3/19 (日)

(6)往復振動流場の熱伝達特性と境界層の挙動
  篠木政利

 スターリングサイクル冷凍機や熱音響冷凍機において,往復振動場における熱伝達特性を理解することは機器の設計上非常に重要である.特に,スターリングサイクル冷凍機における熱交換器と再生器,熱音響冷凍機におけるスタックにおいては,その要素性能を予測する上で必要不可欠である.
 本講演では,往復振動流場の熱伝達特性について,非圧縮性流体を用いて実験的,解析的に検討した結果,Nu数がRe数,St数,Pr数の関数で表すことができること,また,振動境界層での熱輸送現象を把握するため,感温液晶懸濁法を用いた流れ場と温度場の可視化実験と数値解析を行った結果,振動境界層の詳細な挙動を得られたことについて,その実験手法等も含めて発表する.


(7)熱力学シリーズ「黒体放射の熱力学」
  富永昭

 産業革命の進展は高温炉の温度測定を必要とし、この問題に着手し、問題を整理したのがキルヒホッフ(1824-87)である。ブンゼンとの共同実験でスペクトル分析の手法を確立したブンゼンはキルヒホッフの放射法則を発見した(1859-60)。この法則は熱力学第一法則の現れである。次に黒体概念を導入し、黒体放射と空洞放射の同等性を明らかにし、黒体放射に関わる実験の進歩に貢献した。最後に、黒体放射の問題を二つに分けた。第一問題は「空洞放射のエネルギー密度Uは温度Tのどのような関数か?」である。第二問題は「空洞放射のエネルギーのスペクトル密度Uは温度Tと周波数ωのどのような関数か?」である。
平衡系の熱力学を使うと、Uが温度のみに依存することから空洞放射のギブズの自由エネルギー密度Gの値は零であることが判る。キルヒホッフの第一問題はUがT4に比例するというシュテファンの法則(1879)により解決された。シュテファンの法則は過去の実験を再検討して得られた経験則である。 空洞放射の圧力 に着目したボルツマンにより、シュテファンの法則に当時の最新の電磁気学と熱力学による解釈が与えられ(1884)、後にシュテファン・ボルツマンの法則と呼ばれるようになった。シュテファン・ボルツマンの法則によれば黒体放射のエントロピー密度SはT3に比例する。こうして、U-S空間での平衡曲線の形が決まった。キルヒホッフの第二問題についての最初のヒントはスペクトル密度が最大になる周波数ωmaxはTに比例するというヴェーバーの指摘(1888)である。ヴェーバーの指摘には、ヴィーンにより、電磁気学と熱力学とドップラー効果を使った解釈が与えられ(1893)、後にヴィーンの変位則と呼ばれるようになった。ヴィーンの変位則は第二問題についての二番目のヒントである。


(8)討論など


第5回(2006年度第1回)

日時:2006年7月29日(土),午後1時半より<
場所:東京大学生産技術研究所第4会議室プレハブ棟

講演プログラム:
(1)「ループ管と枝管で構成される熱音響冷凍機の最適化」
  東大生研 上田祐樹

 ループ管と枝管を持った熱音響冷凍機が1999年にSwiftらにより開発された.この熱音響冷凍機はループ管を持つことにより蓄冷器から出力された仕事流をエネルギー変換に再利用できる.その為,ループ管と枝管を持った熱音響冷凍機はこれまでに開発されてきた熱音響冷凍機に比べて高い効率を実現できる可能性を有している.
本研究では,熱音響理論に基づいた数値計算により,蓄冷器内の流路径と蓄冷器の設置位置がループ管と枝管を持った熱音響冷凍機の性能に与える影響を調べた.その結果,流路径と設置位置にそれぞれ最適値がある事がわかった.発表では,計算方法及び計算結果について述べる.


(2)「熱音響冷却システムの作業流体プランドル数が冷却特性に与える影響についての実験的検討」
  同志社大学 坂本眞一

 ループ管内に充填する作業流体プランドル数を変化させた際の冷却特性を測定した.プランドル数を変化させるために希ガスを混合した作業流体を用いた.希ガスにはヘリウムとネオン,アルゴン,キセノンの混合気体を用いた.ヘリウムとキセノンの混合気体を用いた際にプランドル数が最も低くなると推測され,実験結果からも同様の傾向を得た.しかし,本実験では予想されたほどの効果は見られなかった. 


(3)最近の実験より
  愛知教育大学 矢崎太一


(4)熱力学シリーズ 「第14章 エクセルギー」
  殿物研 富永昭

 非平衡状態を特徴づける量を調べる。非平衡状態にある物体が断熱的に平衡状態に至る際に出力仕事を放出する。逆に、平衡状態にある物体を断熱的に非平衡状態にするには仕事を入力する必要がある。与えられた非平衡状態に対して、出力仕事を最大にしたり、入力仕事を最小にするには、物体のエントロピーが不変なように平衡状態を選べばよい。物体と環境(仕事浴と熱浴の総称)と化学的仕事浴とからなる孤立系を考えて、物体のエクセルギーを導入する。物体の状態が環境が指定した平衡状態からどの程度ずれているかを表現する指標の一つがエクセルギーである。


第6回(2006年度第2回)

日時:2006年10月7日(土),午後1時半より
場所:東京大学生産技術研究所第4会議室プレハブ棟

講演プログラム:
(1)【招待講演】自励振動ヒートパイプの熱輸送特性
  東京工業大学 長崎孝夫

 加熱部と冷却部の間に細い流路を何回も往復させ、流路内を真空に排気して作動液体を流路体積の半分程度封入すると液柱の自励振動が発生し、高い熱輸送性能が得られる。この自励振動ヒートパイプは従来のウィック式ヒートパイプに比べ高い熱輸送限界を達成する可能性があるが、その作動原理は十分解明されておらず、性能予測手法も確立していない。本講演ではこの自励振動ヒートパイプについて従来の研究を概観するとともに、数値解析など講演者の最新の研究を紹介する。


(2)【招待講演】熱音響エネルギー変換の直接観測
  名古屋大学 田代雄亮

 熱音響現象の理解は「熱流」と「仕事流(音響強度)」という2つのエネルギー流の相互変換現象として,熱機関の観点から進んできた.エネルギー変換を促進するのに用いられるのが,熱境界層程度の流路半径を持つ蓄熱器である.しかしながら蓄熱器内でどのようにして音響強度が増幅,発生するか実験的には不明であった.今回我々は蓄熱器内で振動する流体の圧力,流速,温度変動の3つの物理量の同時計測を行い,これらの動径および軸方向分布を明らかにする.これから流体が行う微小熱力学的サイクルを明らかにし,蓄熱器内の局所的音響強度増幅量がサイクルの面積に本質的に等しいことを示す. 


(3)【招待講演】熱力学シリーズ:相平衡と化学平衡
  殿物研 富永昭

 純粋物質の相平衡を議論するにはギブズの自由エネルギーを使う。沸点上昇、融点降下、浸透圧などは多成分系の安定性に関わるので混合によるエントロピー変化を使って議論することができる。更に、新しい示強性状態量ー化学ポテンシャルーを導入し、ヘンリーの法則、ラウールの法則などの経験則と浸透圧を議論する。質量作用の法則についても化学ポテンシャルを使って議論する。


(4)自由討論:研究会の今後の方針
  参加者全員


第7回(2006年度第3回)

日時:2006年11月24日(金),午後1時半より
場所:日本機械学会会議室

講演プログラム:
(1)パルス管エンジンの基本特性
  明星大 二木洋光


(2)1ピストン型スターリングエンジンについて
  日本大 鷹居佑亮

 1ピストン型スターリングエンジンに関して報告行われた.本エンジンは明星大の濱口らが提唱するパルス管エンジンに大変に類似しているが,より無効容積の小さな構造となっている.この装置でも高温ピストンが省略されていることが,既存のスターリングエンジンに対する優位性である.講演では再生器に空隙率0.995のステンレスウールを使用して,熱源供給熱量のエンジン性能への影響を調べた結果が述べられた.  


(3)金属メッシュを用いた蓄熱器の特性評価
  東大 加藤敏仁

 金属メッシュを多数枚積層して構成される蓄熱器をどのように理解するかは,スターリングエンジンやパルスチューブクーラーを含めて熱音響現象一般の理解にとって重要な課題である.本研究では,積層金属メッシュで構成される蓄熱器中の音波の音響粒子速度と音圧の関係を実験的に明らかにすることを目的に実験が行われた.蓄熱器を備えた中空の管内に外部音源を使って音波を発生させた.圧力計測により決定された蓄熱器の両端における音響粒子速度と音圧を使って,蓄熱器に対する2×2の伝達マトリクスの各成分を求めた.
 様々な実験条件で行われたにも関わらず,伝達マトリクスの主要因子は周波数ならびに粘性境界層の厚みと水力直径の比の積だけの関数として整理できることが分かった.また,円管,正方形ダクトに対する解析解と比較したところ,水力直径を1/√2倍することで有効的水力直径を得られること述べられた.定常流に対するアナロジーからスタートする解析方法とは異なり,振動流であることをあらわに取り入れた問題設定であることが特徴的な解析手法である.スターリングエンジンを含む熱 音響現象の理解に役立つものと期待される.


(4)【招待講演】ヨーロッパにおけるスターリングエンジンの動向
  明星大 濱口和洋

 2006年にドイツで開催された国際スターリングフォーラム2006 (9/26,27)における講演並びに展示内容,さらには木質バイオマスボイラメーカーであるオーストリーMAWERA社の見学状況について報告がなされた.ヨーロッパでは家庭用コージェネレーションシステム並びにバイオマス燃焼発電の用途開発が盛んであるとのことである.


第8回(2006年度第4回)

日時:2007年3月3日(土),4日(日)
場所:国民宿舎 水郷

講演プログラム:
3月3日 13:30-
(1)【招待講演】熱音響自励振動の数値解析
  石垣将宏 名古屋大

 タコニス振動の理論的研究がRottによってなされていて,YazakiらはRottの発振温度比の値が実験とよく一致したと報告している.しかしRottの理論の仮定と実験条件が一致しているかは検証されていない.またRottの理論からは自励振動の振幅は分からない.そこで本研究では数値計算を行い,
1.自励振動が発生している状態でのRottの仮定の妥当性を検証する
2.タコニス振動の振幅と温度比との関係を明らかにする
ことを目的とした.発表では数値計算による解析の結果を報告する.


(2)熱音響冷却システムの発振周波数が冷却特性に与える影響について
  -共鳴管を用いた発振周波数制御法-   同志社大 吉田秀穂 坂本眞一 渡辺好章

 ループ状の配管に原動機として動作するスタックと冷凍機として動作するスタックを備えた装置に関する研究が報告された.この装置では原動機スタックの両端の熱交換器を使って温度勾配を与えるとループ管内を周回する進行波音波が励起される.冷凍機スタックを適切な位置に配置することで自励発振音波による冷却が可能になる.本講演では,ループ管内に波長の1/4程度の長さの枝管共鳴管を取り付けることで,発振周波数の制御が可能なこと,またこの枝管共鳴管に冷凍スタックを挿入した場合の冷凍特性について報告が行われた. 


(3)ループ管冷却システムの音場制御方法についての検討
  同志社大 今村陽祐 坂本眞一 渡辺好章

 この講演でも引き続き,ループ管型の熱音響クーラーについての実験に関する報告が行われた.ループ状の配管は,進行波音波エンジンの実現には不可欠な要素であるが,同時にループを周回する音響流の発生原因ともなっている.ループ管を周回する音響流により,多大なロスが発生するので,これを抑制する必要がある.講演ではゴム膜をループ管内に挿入した場合の実験結果が示された.これによれば,音響流の抑制に効果があるだけでなく,ゴム膜を挿入する位置を変化させることで,原動機スタック内部の音場が調整可能になる.ゴム膜挿入により音場を調整した結果,冷凍性能が大きく変化することも報告された.


(4)伝達マトリクス法を用いたループ管熱駆動冷凍機の性能評価
  東大 加藤 敏仁

 第3回と同様の実験についてより包括的な結果報告が行われた後,実験的に明らかにした蓄熱器の伝達マトリックスを用いて,ループ管型の熱駆動音波クーラーに対する数値計算の結果が報告された.


(5)参加者 Short Presentaion


3月4日 9:00-

(6)【招待講演】局所的変動量測定による熱音響エネルギー変換の直接観測
  名古屋大 田代雄亮

 可動部を持たない熱音響エンジンは近年注目を集めている.熱音響エンジンの理解は従来の熱力学的観点からではなく,エネルギー流の観点から進んできた.これまで両者の関係を明らかにした報告はない.今回我々は蓄熱器内で流体要素の変動量測定を行い,流体要素が経験する熱力学的サイクルを明らかにした.同時に蓄熱器内でエネルギー流の測定を行い,音響強度の変化量を計測しサイクルから得られるエネルギー変換量との関係を明らかにした.


(7)【招待講演】第17章 熱力学第3法則
  殿物理研 富永昭

 ネルンストは、化学反応の反応熱を議論することでネルンストの仮説に到達し、この仮説を使ってネルンストの熱定理を導いた。ネルンストの熱定理はその後の低温実験により支持されている。ネルンストの熱定理はプランクの飛躍を通して熱力学第三法則へと変化した。熱力学第三法則によりエントロピーの符号が決まった。


(8)運営会議,熱音響デバイスの分類に関する提案(井上龍夫)など



第9回(2007年度第1回)

日時:2007年7月7日(土)
場所:同志社大学今出川キャンパス 寒梅館

講演プログラム:
(1)【招待講演】フェーズ・アジャスタを用いた熱音響冷却システムの熱から音へのエネルギー変換特性向上についての検討
  坂本眞一 同志社大学

 熱音響冷却システムの冷却特性向上に向けてフェーズ・アジャスタ(PA: Phase Adjuster)の導入を提案し,その影響について検討した.PAはシステム内に発生する音波の音圧と粒子速度の位相を調整する役割を果たす.その一方で,通常は複数モードが同時に励起されるところを,基本モードを支配的にする効果もある.これらの結果,冷却特性が大幅に向上した.


(2)【招待講演】温度勾配を持つ気柱共鳴管のQ値について
  矢崎太一 愛知教育大学

 気柱共鳴管のQ値を測定する幾つかの方法がある。連続波を利用した共鳴曲線,パルス波のスペクトル解析,パルス波の減衰や増幅の緩和時間,およびエネルギー・エネルギー流束計測などである。エンジン機能の発現する分岐点よりも十分離れたところでQ値を知ることによって,その臨界点と安定曲線を予想することも可能である。講演では,エネルギー流束を計測することによって臨界点まえのQ値を調べ,その結果と他の方法で得られた結果との比較について報告する予定である。 


(3)【招待講演】気体分子運動論ーゆらぎの物理の誕生
  富永昭 殿物理研究所

 初等的な気体分子運動論を使って理想気体の性質を議論する。気体分子運動論は、気体の状態方程式だけでなく、輸送係数の議論でもある程度の成功を収めた。気体が熱平衡に達するためには、気体分子の運動エネルギーの揺らぎを認める必要があり、このことが揺らぎの物理のはじまりとなった。気体と器壁とが熱平衡になるためには吸着性の器壁が必要であり、気体だけで熱平衡に達するためには、気体分子を質点とするなら気体分子同士の衝突を非弾性衝突とするか、あるいは、気体分子の大きさを考慮して気体分子同士の衝突を弾性衝突とすればよい。後者の場合を調べたのマクスウェルは気体分子の速度分布式を提唱した。



第10回(2007年度第2回)

日時:2008年9月27日 午前10:00より
場所:東北大学東京分室

講演プログラム:
(1)【招待講演】Thermoacoustic Research Activities at TIPC/CAS
  Ercang Luo, Chinese academy of scienece

 第13回国際スターリング会議(The 13th International Stirling Engine Conference, 23-26 September 2007, Waseda University)に合わせて来日したLuo教授に最新の研究成果についての講演をお願いした.大振幅を発生する熱音響エンジンでは,音波の非線形効果が顕著になる.結果的に音響流や高調波の発生が性能の低下を招くことになる.同一断面を持つ共鳴管の代わりに,徐々に断面積が広がる形状をもった共鳴管をつかって熱音響エンジンを作成したところ,かなりの性能向上が見られた.また進行波音波発生と,低温生成を担うループ管をそれぞれ一つずつ備えた Double thermoacoustic-Stirling cycles (DTASC) の紹介も行われた.この低温生成用ループ管をパルス管冷凍機に置き換えることも出来る.これにより可動部なしに得られる温度が著しく低下し18Kが得られている.その他,独自に開発した計算コードの紹介も行われた.


第11回(2007年度第3回)

日時:2007年12月22日(土)
場所:東北大学工学部

講演プログラム:
(1)【招待講演】熱音響工学的な視点から見たパルス管冷凍機の理解と効率改善策
【低温工学論文賞受賞講演】
  上田祐樹 東京農工大

 1960年代に発明されたパルス管冷凍機に対して,動作原理の理解と性能向上を目指して精力的な研究が行われてきた.パルス管冷凍機の発展の経緯の中で低温工学誌の果たした役割は大きい.講演ではまず,その掲載論文を中心にしてパルス管冷凍機の歴史が紹介された.次に,パルス管冷凍機内の仕事流・熱流分布が議論され,第一から第三世代に分類される各世代の違いがエネルギー流の観点から明らかにされた.さらに,仕事流の分布から現在のパルス管冷凍機の問題点が指摘され,新しいタイプのパルス管冷凍機が提案された.これは現在の分類の自然な拡張では第四世代のパルス管冷凍機となる.このタイプのパルス管冷凍機の実用化の可能性について活発な議論が行われた.


(2)【招待講演】気柱共鳴管内の衝撃波の音響強度測定
  琵琶哲志 東北大

 共鳴管内の気柱に外力を加えた時に生じる気柱振動について調べた.外力振動数が共鳴周波数に近いとき,外力振幅が非常に小さいときには内部の音圧は正弦波的であるが,外力振幅を大きくすると,次第に波形は歪み始め,ついには不連続面をもった衝撃波を呈するようになる.これは音波中の非線形効果による高調波の励起として理解される.講演では,気柱のどこで基本波から高調波へエネルギー輸送が起こるのか明らかにするために行った音響強度の計測結果が報告された.< 


(3)【招待講演】統計物理学の誕生
  富永昭 殿物理研

 気体分子運動論はその確率論的解釈を通して統計物理学を生み出した。平衡系の熱力学と気体分子運動論という異なる階層の橋渡しがボルツマンの原理である。初期の統計物理学(古典統計物理学)も平衡系の熱力学の建設者ギブズにより完成された。


第12回(2007年度第4回)

日時:2008年3月15日(土),16日(日)
場所:同志社大学リトリートセンター

講演プログラム:
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(1)太陽熱エネルギーを利用した熱音響冷却システムに関する基礎検討
  宮直基,坂本眞一,渡辺好章,千田二郎 同志社大

 熱音響現象を利用した冷却システムの一つであるループ管において,入力エネル ギーとして太陽熱エネルギーを利用した冷却を目指し測定を行った.フレネルレ ンズにより集束した太陽光を熱交換器に直接照射し,太陽熱エネルギーをループ 管に入力した結果,熱源部の温度は約30℃から480 ℃まで上昇し,熱音響現象に よる音波発生に成功した.変換された音波により,冷却部の温度は29 ℃から-4. 5 ℃まで低下し,およそ34 ℃の冷却を得られた.


(2)熱音響冷却システムの小型化に関する基礎研究
   -ループ管方式における全長がエネルギー変換効率に与える影響について-
  若田哲也,坂本眞一,渡辺好章 同志社大

 我々は,熱と音との間でエネルギー変換が行われる現象である熱音響現象を利用 した冷却システムのひとつであるループ管に関する研究を行っている.現在まで に報告されているループ管の全長は主に3m以上であり,実用化に向けてその小型 化が望まれている.本報告では,エネルギー変換の効率の評価量としてよく用い られる無次元量パラメーターωτに注目し,小型ループ管におけるωτの有用性 について実験的な検討を行った. 


(3)積層メッシュにおける音と熱のエネルギー変換に関する研究
   -スタック設置位置とωτの関係について-
  辻良行,坂本眞一,渡辺好章,千田二郎 同志社大

 熱音響冷却システムの駆動周波数が高くなる場合,スタックには細かな流路が求 められる.金属メッシュを積み重ねることで,流路が細かなスタックを構成する ことが可能である.しかし,積層メッシュは流路半径の判別およびωτの算出が 不可能である.本研究では, とスタック設置位置の関係を検討し,積層メッ シュ製スタックのωτを実験的に見積もる方法を提案する.その結果,10,20, 40 meshそれぞれのωτは,ωτ≒1.3 ,ωτ≒1.0 ,ωτ<0.7 と見積もるこ とができた.


(4)熱音響系で観測された位相引き込み現象
  吉田隆昌 加藤昂紀 矢崎太一 愛知教育大学


熱音響気柱自励振動に周期的な外力を加えることにより,「強制引き込み現象」の実験について報告がなされた.エンジン音を消す技術などの応用的利点もあり,米国のSwift等によって最近研究されている話題の一つである.タコニス振動系では既に報告されているが,熱音響エンジンとしての研究は少ない.また,本研究会で取り上げられるのは初めてのことでもあり,最初に「位相同期現象」の簡単な解説と,それに基づいた電気回路による実験が紹介された.熱音響系での実験では,同調現象が位相引き込みと振幅抑制の2つの異なった分岐メカニズムによって起こることが報告された.これらの現象が,熱音響振動の研究で重要な「エネルギー流(仕事流)」とどのように関連付けられるか等,今後の問題点についても議論がなされた.


(5)低温工学熱音響特集号に関する話し合いと,参加者全員によるshort presentation


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(6)温度勾配による管内進行波音波の増幅と減衰
  小松 遼 東北大

 1979年,米国のCeperleyは,往復動ピストンを進行波音波で置き換えた,ピストンのないスターリングエンジンを理論的に提案した.従来型のスターリングエンジンでは,温度勾配を持つ蓄熱器中の作動流体の圧力と流速を同位相で振動させるために二つの対向ピストンを使うのに対し,彼の提案する進行波音波スターリングエンジンでは,進行波音波を使う.このエンジンの出力仕事は蓄熱器を通過する進行波音波のパワーの増加量の形で得られる.以上のアイデアの実現は,彼自身によって行われた検証実験では失敗に終わったが,その後20年が経過してようやくループ管を用いた熱音響エンジンによって実現した.その後の進展は目覚ましく,今では進行波音波を使った多様な熱音響熱機関が世界中で活発に研究開発されるようになっている.しかしながら,熱音響工学の一つの出発点となった彼の実験には未だだれも成功していない.講演では彼の実験の問題点を整理した上で,行った再現実験の結果が報告された.


(7)パルス管冷凍機における流体ダイナミクスの光計測
  岩瀬 貴志 東北大

 パルス管冷凍機は低温部に膨張仕事を行うような固体部品が存在しないにも関わらず,可動部品を有するスターリング冷凍機やギフォードマクマホン(GM)式冷凍機と遜色ない冷凍性能を発揮する.このことは蓄冷式冷凍機の冷凍の原理を見直す大きなきっかけとなった.その後の研究では,蓄冷器内部の振動流体の圧力振動と流速振動の位相関係の制御方法や音響流の抑制方法が次々と提案され,1990年代以降にパルス管冷凍機の性能は大きく向上した.その一方で,極低温であること,加圧ヘリウムガスを使用すること,振動流であること,という条件の制約があるために,先の位相関係を含めた冷凍機内部の流体ダイナミクスの直接観測は十分に行われていないのが現象である.講演では試作したオリフィス型パルス管冷凍機プロトタイプについて,音響インピーダンスの直接計測の結果と音響流の可視化ムービーの紹介が行われた.


(8)【招待講演】熱力学的揺らぎ
  富永昭 殿物理研

 静止流体中の懸濁粒子の運動を議論したアインシュタインの結論がペランの実験により支持された.こうして粒子論的自然観が確立された.統計物理学の確率論的思考は,孤立系のエントロピーの揺らぎを容認することで平衡状態での熱力学的揺らぎの議論をもたらした.この議論もアインシュタインによる.熱力学的揺らぎは,青空や臨界蛋白光の理解に役立っただけでなく,ジョンソン雑音をも明快に説明する.


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