2009年度研究会


第1回 第2回 第3回 第4回

 第1回(通算第5回)

日時:7月4日(土),見学会10:30-12:00,研究会13:30~17:00

見学会会場:産業技術記念館,研究会会場:名古屋会議室 名駅西口店

[見学会]
産業技術記念館,および同記念館にある世界最大級の水スターリングエンジンの見学(希望者のみ).
 案内:コンポン研究所・井上さん

[研究会]
[1] 平成21年度文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞記念講演1
「熱音響システム実用化についての取り組み,これまでとこれから」 坂本眞一(滋賀県立大学)

熱音響現象に初めて触れてから,今に至るまでの取り組みを実験データーとともに振り返ります.また,主観的にはなりますが,今後の展開についても簡単に触れたいと考えております.

[2] 平成21年度文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞記念講演2
「最近の研究から(可動部品を備えた熱音響系の実験)」 琵琶哲志(東北大)

熱機関から可動部品を取り除くことに成功した点が熱音響デバイスの最大の特長である.しかし可動部品がないおかげで面倒なことも生じる.音波エンジンでは,自励発振しないことには何も始まらない.実験者はヒーター線が切れる心配をしながらも,もう少しで鳴るかもと思いながらおそるおそる加熱温度を増加させる.また,同じ条件で(例えばスタックのみを変更した)音波エンジン同士の比較をしたいときも思うままにならないことが多い.応用を考える上でも,可動部品がないままでは困難なことがある.例えば,可動部品なしでは電力に変換することは現状では(不可能ではないが)難しい.本講演では,可動部品を備えた熱音響系について行った以下の2つの実験を紹介する予定である.一つは自励発振開始温度と自励発振時の振幅の予測する方法であり,もう一つは熱音響発電機の試作である.

[3] 富永先生の新シリーズ「第1章 音速の歴史概観」 富永昭(殿物理研究所)
分散(音速の周波数依存性)の問題はギリシャ時代から議論されていました。17世紀に始まった自由空間中の音速測定の結果は音速のニュートン理論の結果とは合いません。18世紀に質量保存則と運動量保存則に基づく流体力学が誕生しましたが、流体力学で議論できたのはバロトロピー流だけです。ポリトロピック指数nを適当に選べと音速のニュートン理論が定式化されました。18世紀末には熱素保存則に基づく熱学が誕生し、19世紀初めになって、nの値は等温過程では1だが断熱過程では比熱比に等しいとみなすようになりました。しかし、19世紀前半に熱力学第一法則が確立されると、熱素が否定されたので、断熱過程は無意味になりました。19世紀に粘性流体を扱う流体物理学が始まりました。固体壁があると流体は粘性の影響を受けるので、管内音波では粘性の影響が顕著です。19世紀中頃には管内音波が観測出来るようになり、音速測定に共鳴法が加わりました。管内音波を議論する際に粘性だけを考慮したのはヘルムホルツの1863年論文です。管内音波を議論する際に粘性だけでなく熱伝導も考慮したのはキルヒホッフの1868年論文です。19世紀末に平衡状態の熱力学が体系化されて局所平衡の仮定の意味がはっきりすると、自由空間中の音波は流体要素のエントロピーが不変な運動であることが判りました。管内音波についてキルヒホッフ理論の妥当性を実験で明らかにしたのはYazakiらの2007年論文です。管内音波についても局所平衡の仮定が成り立つけれども不可逆過程を考慮する必要があります。


 第2回(通算第6回)

日時:10月10日(土),13:00-16:45,場所:東北大学東京分室


[1] 13:00-13:30 「熱音響自励振動衝撃波」高橋 琢磨,琵琶 哲志(東北大)
 固体ピストンを使って気柱共鳴管内に大振幅音波を発生させると,振動モード間の非線形相互作用により次々と高次モードが励起され,遂には衝撃波音波が形成される.このエネルギーカスケードは局所的に起こることが,音響強度計測を通じて最近観測されている.共鳴管で構成される定在波型熱音響エンジンにおいても,同様の局所的なエネルギーカスケードは既に観測されている.しかし先に行われた実験結果によれば,定在波型エンジンではスタックにおける熱音響効果が非線形効果による高次モードの励起を阻害することが示されている.従って,定在波型エンジンにおいては熱音響効果による衝撃波音波の発生は期待できず,実際のところ現在まで熱音響系での衝撃波形成の報告はなかった.
 我々はループ管で構成される進行波型熱音響エンジン内で,熱音響自励振動衝撃波を初めて観測した.衝撃波の形成要因を明らかにするためにループ管内の音響強度計測を行ったところ,スタックでの熱音響効果が基本モードだけでなく高次モードの増幅にも寄与していることを見いだした.このことは,定在波型とは異なり,進行波型では熱音響効果を通じて衝撃波が形成されることを意味する.

[2] 13:30-14:00 「機械系を接続した熱音響エンジンの性能予測」羽鳥 宏樹,琵琶 哲志(東北大)
 共鳴管をつかった定在波型熱音響エンジンとループ管をつかった進行波型熱音響エンジンは,音による熱機関として論文・学会発表やマスコミ報道等で広く知られるようになってきた.これらは言わば熱音響エンジンの「基本形」である.一方,熱音響効果で発生する音響パワーを電力や動力として取り出すことを目的とした「発展形」熱音響エンジンは,基本形を組み合わせて構成される.この「発展形」熱音響エンジンには,熱音響エンジンと熱音響クーラーを組み合わせたno-moving partsの熱駆動型クーラーや,ボイスコイルモーターやフライホイールなどの機械系と組み合わせたless-moving partsのエンジンなどが含まれる.このような基本要素を合成する試みは,熱音響工学の新展開の一つである.
 熱音響理論やこれに基づく数値計算手法,音場計測技術の発展により「基本形」に対する理解は進歩し,臨界温度差や動作周波数も予測可能になってきた.しかし,多様な組み合わせが可能な「発展形」については,どのような基本形をどのように合成すれば望みの性能が得られるのか,予測困難なのが現状である.
 我々は,発展形熱音響エンジン開発に必要不可欠な合成指針を確立することを目的に実験的研究を行っている.講演では,音響系(ループ管)と機械系(ダイナミックベローズ)を枝管共鳴管で接続した熱音響スターリングエンジンについて,自励振動周波数や動作に必要な温度差が各部分系の音響インピーダンスから決まることを実験的に示す.この実験結果は,やみくもに実験しなくても合成系の自励振動に対する知見が得られることを意味する.

[3] 14:15-14:45 「熱駆動熱音響冷凍機の開発 -定在波型熱音響エンジンによる進行波型熱音響 冷凍機の駆動-」中村 謙太(東京農工大)
 熱音響エンジンと熱音響冷凍機を組み合わせることで熱入力によって駆動する冷凍機が製作できる.この冷凍機は全く可動部を持たず,熱源に廃熱や太陽熱などを利用できるため注目されている.本研究では熱音響理論に基づいた数値計算によって熱音響エンジンと熱音響冷凍機を組み合わせた系の設計を行う.熱音響冷凍機は進行波型,エンジンは定在波型とした.この理由は冷凍機に関してはできるだけ高い効率を実現するためであり,エンジンに関してはできるだけ低い稼働温度を目指したためである.今回はエンジン・冷凍機用のそれぞれの蓄熱器の設置位置や蓄熱器の長さを変えながら,数値計算によって管内の圧力や流速を計算し,稼働可能温度や効率を調べることで装置の最適形状を求めた.

[4] 15:00-16:00 音速シリーズ「第2章 流体力学」富永昭(殿物理研究所)
 18世紀に運動方程式と質量保存則に基づく流体力学が始まりました。流体力学の創始者はD. ベルヌーイ(1700-82年)とL. オイラー(1707-83年)です。局所的定常流ではベルヌーイの定理が成り立ちます。流体力学では粘性などによる不可逆過程を無視しています。運動方程式は流速と圧力の関係であり、質量保存則は流速と密度の関係なので、密度と圧力の関係が欠如しています。密度が不変な流体は非圧縮性流体です。圧力が密度だけで決まるバロトロピー流を仮定するとケルビンの渦定理が導けます。渦無しのバロトロピー流はポテンシャル流です。バロトロピー流を仮定してポリトロピック指数を1とするとニュートンの音速理論が定式化できます。

[5] 16:15-16:45 その他


 第3回(通算第7回)

日時:12月19日(土),13:30-16:30,場所:東北大学東京分室


[1] 13:30-14:15 ISEC2009会議報告 琵琶哲志(東北大)
 The 14th International Stirling Engine Coference (Nov. 16-18, 2009,Groningen, The Netherlans)に参加した.ISEC2009会議では57の発表が行われた.その中のオランダECNのTijaniらの発表の概要を紹介する.オランダの(石油)化学工業分野では蒸留・精製などのために1年間で100PJの熱が強制冷却されている.彼らはとくにこの種の排熱の再利用のために熱駆動型の熱音響ヒートポンプの研究開発を行っている.彼らが熱音響の用途をどのように検討したか,また作成したプロトタイプの性能などを報告する.合わせて関連するこの分野の研究動向についても紹介するので,今後の熱音響の可能性について意見交換するきっかけとしたい.
“Coaxial thermoacosutic Stirling integral system: Cooler driven by a two-stage engine”, S. Vanaplli and M. E. H Tijani (Energy Research Center of the Netherlands)

[2]14:30-15:30 音速シリーズ「第3章 流体物理のはじまり」富永昭(殿物理研究所)
 19世紀には、流体の粘性を考慮することで現実の流体の運動に近づきました。G. ストークスにより粘性流体の運動方程式が提出され(1845年)、その一つの近似式がナヴィエ・ストークスの方程式です。ナヴィエ・ストークスの方程式の線型・長波長近似を使うと管内定常流のハーゲン・ポアズイユの法則が導出できます。また19世紀にはマッハ数、ストルーハル数、レイノルズ数などの無次元量が出現しました。20世紀末にレーザードップラー流速計(LDV)を使って流路断面内での流速分布が測定出来るようになりました。測定結果はナヴィエ・ストークスの方程式を支持しています。

[3]15:45-16:30 今後の研究会についての話し合い,参加者全員
 次回研究会(2010年3月予定),来年度研究会,熱音響講習会について


 第4回(通算第8回)

日時:3月27日(土)13:30-17:30,3月28日(日)9:30-正午(予定),場所:東北大学東京分室


3月27日
[1] 13:30-14:30 「温度比の異なるタコニス振動の流れ場の数値解析」石垣将宏(名大工),石井克哉(名大情報基盤センター)
 熱音響自励振動の発生源と考えられる細管内の流れ場を詳しく研究した例は未だ少ない。そこで本研究では,数値シミュレーションにより1本の細管内で生じる熱音響自励振動である「タコニス振動」の流れ場を解析し,熱音響自励振動のダイナミクスを明らかにすることを目的とする。解析の結果,実験的に観測することが困難である細管内の温度場や渦度場の様子が明らかになった。また,タコニス振動の臨界点近傍のホップ分岐が境界層の厚さをパラメータとして,ヒステリシスをもつ分岐からもたない分岐へ変化することが分かった。

[2] 14:40-15:10 「熱音響振動系における同期現象の観測」吉田隆昌(愛知教育大学),矢崎太一(愛知教育大学)
 熱音響エンジンの振動音抑制を可能にするため,定在波型自励振動系で1:1の強制同期現象を実現し,分岐図を作成した。 外力振幅の大きさに従って、2つの異なった分岐が観測された。外力の小振幅領域では「位相引き込み(Saddle-Node型分岐)」が実現され、大振幅領域では「振幅抑制(Torus Birth/Death分岐)」が観測された。位相引き込み領域,振幅抑制領域、および準周期領域の各領域で「仕事流」を測定し、振動を維持するための音源を明らかにしたので報告する。

[3] 15:10-15:40 「ループ型熱音響冷凍機のエネルギ変換と損失に関する研究」高橋諒司(明治大学)
 熱音響現象は熱エネルギと音響エネルギの相互変換である.熱エネルギを音波に変換し,その振動を利用することによってヒートポンプと同様の行程を実現することができる.本研究では,ループ型熱音響冷凍機における原動機の加熱用熱交換器を,スターリングエンジン用熱交換器設計手法を利用して製作した.実験より,熱交換器の内部変換効率は伝熱面積に依存することが明らかとなった.また,熱音響冷凍機のエネルギ損失を解析するために,実測値よりエネルギフローを作成した.その結果,入熱量の約70%が放熱されていることがわかった.

[4] 15:50-16:20 「熱線流速計を用いた管内振動流の測定」馬場佳子(東京農工大),上田祐樹(東京農工大)
 熱音響機器の性能評価には,振動流の音響インテンシティを計測することが必要である.音響インテンシティの測定方法として, LDVを用いる方法や2センサ法がある.しかし,前者は加圧気体を扱いづらく,後者は狭部の測定が難しい.そこで加圧気体にも対応でき,かつ,1つのセンサで計測する方法として,熱線流速計を用いることを提案する.本講演では,熱線流速計を用いて流速の振幅と位相を実測し,2センサ法と振幅,位相それぞれについて比較をおこなった.

[5] 16:20-16:50 「熱駆動熱音響冷凍機の開発 ~定在波型熱音響エンジンによる進行波型熱音響冷凍機の駆動~」
  中村謙太(東京農工大),上田祐樹(東京農工大)

 熱音響エンジンと熱音響冷凍機を組み合わせることで熱入力によって駆動する冷凍機が製作できる.この冷凍機は全く可動部を持たず,熱源に廃熱や太陽熱などを利用できるため注目されている.本研究では熱音響理論に基づいた数値計算によって熱音響エンジンと熱音響冷凍機を組み合わせた系での設計を行い,実機を製作し,性能を確認した.熱音響冷凍機は進行波型,エンジンは定在波型とした.この理由は冷凍機に関してはできるだけ高い効率を実現するためであり,エンジンに関してはできるだけ低い稼働温度を目指したためである.今回はエンジン用の蓄熱器の設置位置や蓄熱器の長さを変えながら,数値計算によって管内の圧力や流速を計算し,稼働可能温度や効率を調べることで装置の最適形状を求めた.その中で200℃程度で稼動し始める装置を製作し,冷凍機で50℃の温度差を得るとき,全体のエネルギー変換効率(冷凍出力/入力熱量)が0.017となることがわかった.

[6] 17:00-17:30 「自由発表」 参加者全員


3月28日
[7] 9:30-10:00 「熱音響システムの小型化に向けた研究 -直管方式における自励発振とヒート ポンプ効果について-」
  坂本眞一(滋賀県立大学)

 直管方式の小型熱音響システムにおけるプライムムーバのωτに関する検討を行った.また,システム内の音場を測定し,小型化が管内の音場に与える影響について検討を行った.実験結果から,ωτを1程度にすることで小型化したときも音波が発振されることが確認された.また,小型化したときの位相差分布及び音圧分布は同様の傾向を示した.これらの実験結果を基に,全長が130 mmのシステムを設計し音波の発振を試みた.結果,130 mmのシステムで熱エネルギーから音エネルギーへの変換を実現することに成功した.

[8] 10:10-10:40 「熱音響エネルギー変換の観測」谷口寛樹(東北大),琵琶哲志(東北大)
 カルノー以来,一種のブラックボックスとして取り扱われてきた「熱機関」に対する新しい見方が,熱音響理論により提示された.流体要素の行う微小サイクルを通じて生じる「熱流」と「仕事流」の相互変換に基づくエネルギー変換現象の描象は,これまでの熱機関の理解の仕方をリニューアルする可能性がある.我々は熱機関に対する新しい理解の仕方の合理性と妥当性を検証するために,実験的な立場から熱音響エネルギー変換の様子を調べている.田代らによって行われた実験を発展させ,イナータンスチューブを使って細管内の圧力と流速の位相差を意図的に変化させて,圧力・流速・温度の同時計測を行った.位相差の変化により,流体要素が経験するサイクルが変化するとともに仕事流の空間的変化も変化することが分かった.

[9] 10:40-11:40 音速シリーズ「第4章 局所平衡の仮定」富永昭(殿物理研究所)
 自由空間中の音速については、質量保存則とオイラー方程式の線型近似を使って議論した結果とを比較すると、流体要素の膨張・圧縮過程は断熱過程であることが判明しました(1816年)。管内音波については、質量保存則とナヴィエ・ストークス方程式の線型近似を使って議論した結果(部分的には1863年)を21世紀の観測結果と比較すると、定性的には一致していますが、定量的には明らかに異なります。熱学が熱力学へ変貌を遂げると断熱過程は無意味となりました。平衡系の熱力学は平衡曲面の幾何学です。局所平衡を仮定すると密度は圧力とエントロピーで表現することができます。熱学の断熱過程は熱力学の定エントロピー過程です。流体要素のエントロピーが不変な流れを理想流体と呼ぶことにすると、非圧縮性の理想流体ではエネルギーについての連続の式が成り立ちます。粘性係数がゼロの理想流体を完全流体と呼ぶことにすると、完全流体では運動エネルギーを含むエネルギーについて連続の式が成り立ちます。

[10]11:40- 講習会と来年度研究会についての話し合い,参加者全員